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2025年12月15日
モンスター社員にはどう対応すべき!?組織を立て直す善後策も解説

「モンスター社員」とは正式な法律用語ではありませんが、社内規則違反や上司・同僚への誹謗中傷を繰り返し、職場環境に悪影響を及ぼす社員を指す言葉です。
こうした社員への対応には労力が割かれがちです。
放置すれば他の有能な社員が離職してしまうなど、企業に深刻な不利益をもたらします。
特に人員の少ない中小企業では一人の問題社員による業務への支障が組織全体の生産性低下につながりかねず、決して無視できません。
また、対応を誤れば訴訟や労使トラブルにも発展し、企業側が不利になるリスクもあります。
そこで本記事では、モンスター社員にはどう対応すべきか、そして組織を立て直すための善後策について、法的根拠や実務知識を踏まえながら具体的に解説します。
モンスター社員への対応前に押さえるべき考え方

モンスター社員への対処に着手する前に、いくつか重要なポイントを押さえておきましょう。
まず対応は、迅速かつ適切に行うことです。
問題社員を放置・黙認すれば、他の従業員に悪影響が広がり、経営者が会社をコントロールできなくなる恐れがあります。
たとえば、モンスター社員に同調して指示に従わない社員が増えたり、モンスター社員本人がエスカレートして会社に不当要求を突きつけるようになる可能性も考えられます。
そのため、問題行動を見て見ぬふりせず、できるだけ早く必要な対応を取るべきです。
早期に対応できるかどうかは、後の証拠集めや懲戒処分がうまくいくかにも関わってきます。
実際、問題を長く放置すると「今さらなぜ処分するのか」といった反論を許し、懲戒処分を科すこと自体が難しくなる危険もあります。
まずは素早い対応姿勢を整えましょう。
もっとも、早かったとしても中途半端な対応は禁物です。
感情に任せた懲罰的な行動や、法律を無視した強引な対処は逆効果になります。
社員側から逆恨みで訴訟を起こされたり、外部ユニオン(合同労組)に駆け込まれるケースもあり、適切でない解雇や指導は企業側の責任を問われかねません。
常に法令を遵守し、どの社員に対しても法的に正しい方法で対応することが必要です。
就業規則や労働法の専門知識に自信がない場合は、早い段階で社会保険労務士や労務に強い弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
中小企業では人事労務の知識不足から適切な対応が難しいことも多いですが、そうしたときに頼りになるのが社会保険労務士(社労士)です。
労務管理の専門家である社労士に相談すれば、状況を客観的に整理し、法に沿った解決策を一緒に考えて早期対応することができます。
社労士と顧問契約を結んで日頃から相談できる関係を築いておけば、いざトラブルが起きた際にも迅速かつ的確な対応が可能になります。
さらに、対応に当たっては組織全体で毅然とした態度を貫くことが重要です。
モンスター社員への対応で最も大切なのは、会社全体として一貫した毅然とした姿勢を示し続けることです。
社長や経営陣が明確な方針を示さず現場任せにしていると、注意指導を担当する管理職ばかりに負担が集中し、上司自身が精神的に追い詰められてしまうケースもあります。
そうなると、上司が退職してしまい、かえって有能な人材を失う結果にもなりかねません。
会社として一本筋の通った対応方針を決め、現場で対応する管理職を組織的に支えてください。
最後に、職場環境にも目を向けましょう。
モンスター社員の中には本人の資質だけでなく、職場環境や企業側の問題が要因であるケースもあります。
たとえば、「教育・指導が不十分」「評価制度や人事配置の基準が不透明」など職場への不満から社員がモンスター化するケースも少なくありません。
長時間労働や行き過ぎたノルマで心の余裕を失い、過剰な防衛反応として攻撃的な言動に及んでしまう社員もいるのです。
したがって、個別の社員の問題行動に対処する際も、「なぜそうなったのか」という原因を冷静に分析し、自社のルールやマネジメント体制に改善点がないか振り返ることが大切です。
問題社員への対応は感情的な報復ではなく、職場環境を見直す契機と捉え、再発防止策まで視野に入れましょう。
モンスター社員と扱うべきかどうか見極めるための初期対応

モンスター社員への本格的な対処に入る前に、「本当にその社員をモンスター社員として扱うべきか」を見極めるための次のような初期対応を行いましょう。
- 事実を正確に把握する
- 本人へのヒアリングを行う
- 就業規則・懲戒基準を確認する
以下から、それぞれを詳しく見ていきましょう。
事実を正確に把握する
まずは事実関係の正確な把握に努めましょう。
噂話や主観だけで動くことは厳禁で、何が起きているのかを客観的な証拠と共に押さえる必要があります。
具体的には、当該社員の問題行動や言動について日時・内容を詳細に記録し、関連する資料を収集します。
報告書やメール、勤怠記録、録音・録画データなど複数の証拠を組み合わせて残すことが効果的です。
たとえば、遅刻や無断欠勤を繰り返しているなら出勤簿やタイムカードの記録、業務命令違反があるなら指示書やメールの履歴を確認します。
ハラスメント発言があるなら会話の録音や周囲の証言メモ、というように、さまざまな角度から事実を裏付ける資料を集めましょう。
記録内容は後々第三者(社労士や弁護士、あるいは裁判所)が見ても客観性に優れ納得できるものであることが重要です。
主観的な評価ではなく、具体的な言動や業務上の支障など「事実」に即して記録してください。
必要に応じて、第三者による事実調査を行うことも検討しましょう。
自社内の人間が調査するよりも、弁護士など外部の専門家に依頼した方が公平性が保たれ、社員本人にも「会社が重大な問題として正式に動いている」という認識を持たせやすくなります。
実際、「会社が内部でこそこそ調べる」のではなく、弁護士が入って調査を行うことで、本人に対して会社が本気で対応していると認識させる効果が期待できます。
専門家による調査結果は客観的な証拠能力も高いため、後々の懲戒処分や法的手続きにおいて心強い後ろ盾となるのです。
ただし、専門機関に依頼する場合は費用も発生するので、問題の深刻度に応じて検討してください。
本人へのヒアリングを行う
事実関係を把握したら、次に当人へのヒアリング(事情聴取)を行いましょう。
懲戒手続き上の「弁明の機会」という意味合いがあり、それ以前に問題解決の糸口を探る大切な段階です。
本人や関係者に丁寧にヒアリングを行い、問題行動を起こした理由や本人の言い分にも耳を傾けましょう。
上司や人事担当者が一方的に責め立てるのではなく、「なぜそんな行動に至ったのか」「仕事上何か不満や困り事はないか」などを冷静に尋ねましょう。
この段階で本人と一緒に問題解決策を考えられれば、社員のさらなるモンスター化を防ぐことも可能です。
実際、面談で意見を聞き適切な対処を取った結果、本人が態度を改めたケースもあります。
モンスター社員予備軍といえども、適切なコミュニケーションでまだ軌道修正の余地があるかもしれません。
ヒアリングの際には、決して感情的にならず冷静かつ穏やかに対話することが肝心です。
本人の問題行動に腹が立っていても、怒鳴りつけたり高圧的な態度を取るのは逆効果です。
「なぜそんなことをしたんだ!」と糾弾するのではなく、「どうしてそうなったのか一緒に原因を考えたい」という姿勢で臨みましょう。
事実確認で判明した問題行動については、具体的に指摘しつつも、その背景事情について本人の説明を聞き出します。
たとえば、「最近頻繁に遅刻があるようだけど、何か体調や家庭の問題があるのか?」と問いかけるなど、本人に自己防衛ではなく本音を話してもらう工夫が大切です。
ヒアリング内容はできれば同席者(たとえば人事担当や別部署の管理職)にも客観的に記録してもらいましょう。
後日の証跡にもなりますし、第三者の目があることで本人も冷静に話しやすくなる利点があります。
ヒアリングを通じて、問題社員側にも「自分の行動が周囲に与えている影響」を自覚させるよう促します。
上司からの指摘や同僚の声を具体的に伝え、「このままでは雇用の継続が難しい状況だ」という認識を共有できれば理想的です。
本人が自分の非をまったく認めない場合でも、「会社としてはこの問題を非常に重く見ている」というメッセージを面談でしっかり伝えてください。
そのうえで、改善に向けた建設的な提案(研修受講やメンター配属など)も行い、本人に更生のチャンスを与えましょう。
ヒアリング結果は記録に残し、本人の主張や反論も含めて整理しておきましょう。
後の懲戒委員会や法的紛争に備え、こうした「本人に説明・弁明の機会を与えた」というプロセスを踏んだ事実があることは重要です。
就業規則・懲戒基準を確認する
初期対応の最後に、自社の就業規則や懲戒基準を確認しておきましょう。
モンスター社員への対応策を検討する際は、社員がした行為が就業規則上どのような違反に該当し、どの程度の懲戒処分が科せられる可能性があるかを把握しておく必要があります。
就業規則には服務規律や懲戒の種類・適用事由が定められているはずです。
たとえば「正当な理由のない業務命令拒否は懲戒事由となる」「ハラスメント行為は禁止事項であり、違反時は減給または出勤停止」などの条項です。
実際、就業規則に会社の指示命令に従う義務が明記されている場合、正当な理由なく拒否すれば懲戒事由になり得ます。
問題社員の行為がこうした規則のどれに抵触しているのか、まず整理しましょう。
次に、懲戒処分の種類や手続きも確認します。
就業規則には通常、懲戒の種類(戒告・譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇など)とその適用基準が定められています。
問題行動の程度に応じてどの処分を科すことが妥当か判断するため、社内ルールの再確認が必要です。
「始末書提出○回で減給○%」「度重なる問題行為で懲戒解雇検討」などの規定があれば、それに沿って段階を踏みます。
懲戒処分は会社から本人への重大な権利行使であり、就業規則に定めのない処分を行うことは許されません。
したがって、自社規則の網羅性に不備がないかも見てください。
もし「あてはまる懲戒事由が規則に無い」「処分手順が曖昧」などの問題があれば、社労士等と相談のうえ早急に就業規則の整備・改定を検討すべきです。
なお、日本の労働法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場には就業規則の作成・届出義務が課せられています(労基法第89条)。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
引用元:労働基準法 | 第89条
就業規則は単なる社内ルールではなく労働契約の内容ともなります。
したがって、懲戒処分を正当化する拠り所になります。
もし就業規則が未整備だったり周知されていなかったりすると、後の懲戒や解雇が無効と判断されるリスクが高まってしまうのです。
たとえば「懲戒処分が重すぎる」「規則にない処分だ」として訴訟になれば、会社側が敗訴し、多額の未払賃金や慰謝料の支払いを命じられるケースもあります。
適切な対応を取るための前提として、自社のルールを再点検し、法的に有効な手続きを踏む準備を整えておくことが重要です。
モンスター社員への正しい対応の進め方

初期対応で状況を把握したら、いよいよ具体的な対応措置を段階的に進めていきます。
ポイントは、一足飛びに最終手段に訴えず段階を踏んで指導・処分をエスカレートさせることです。
いきなり解雇や厳罰に処そうとすると、不当解雇の訴えや労使紛争に発展するリスクが高まりますし、社内的にも「なぜ急に」と混乱を招きます。
次のような、段階的・積み上げ型の対応が原則です。
- 注意・指導を行う
- 懲戒処分を行う
- 懲戒解雇を行う
それでは、以下から各段階を具体的に見ていきましょう。
注意・指導を行う
第一段階は、注意・指導による是正勧告です。
これは日常的な指導の延長線上に位置する対応であり、モンスター社員への対処もまずはここから始まります。
具体的には、把握した問題行動について「何が問題で、どう改善すべきか」を本人に明確に伝え、注意を与えることです。
口頭で伝えるだけでなく、必要に応じて文書でも通知しましょう。
多くの経営者が「何度も口頭で注意した」と話すものですが、書面に残していなければ証拠にはなりません。
本人に自覚を促すためにも、そして後日の証跡のためにも、最初の注意指導の段階から書面による記録を残すことが肝心です。
具体的には、上司や人事担当者が指導内容を書面(始末書や指導書、メールでも可)にまとめ、本人に交付または内容を確認させるようにします。
その場で本人に署名・押印をもらえれば理想です。
難しければ上司側で「○月×日○時、○○課長が本人○○に口頭注意。内容は△△…」といった記録を書き残し、上位者(部長や社長)がそれを確認する形でも構いません。
大切なのは、「いつ・誰が・どんな問題に対して・何を注意指導したか」を時系列でファイリングして証拠化することです。
たとえば勤務態度の注意であれば、「◯月×日部長が始業遅刻について口頭注意。本人反省の弁述べる」といったメモを作り、人事部で保管します。
繰り返しになりますが、口頭注意のみで記録がない場合、後から本人に否認されたり「聞いていない」と言われると立証が困難です。
そうならないよう、一回一回の指導を軽視せず、必ず形に残しましょう。
指導内容としては、「職場で許容されない具体的行為」と「期待される改善行動」の両方を伝えます。
たとえば問題社員が同僚に暴言を吐いた場合、「○月×日に△△さんに『○○』と言ったそうだが、それはハラスメントであり許されない。今後二度とそのような発言をしないこと」と明確に伝えます。
勤務態度であれば、「最近のあなたの成果は著しく低調だ。与えた業務報告も期限に遅れ、◯件ミスも出ている。このままでは評価に響く。原因を分析して改善策を講じなさい」といった具合です。
問題点を端的に指摘し、改善されない限り雇用継続が困難であることもはっきりと伝える必要があります。
注意指導は懲戒ではなくあくまで改善機会の提供ですが、そこで甘い姿勢を見せると本人に危機感が伝わりません。
優しさから曖昧な伝え方をせず、「これ以上改善がなければ正式な懲戒処分も検討せざるを得ない」という趣旨を穏やかながら明確に示すことが、再度の問題行動を抑止する効果もあります。
同時に、日頃の細やかな注意指導を繰り返すこと自体が基本である点も確認しておきましょう。
問題が小さいうちに指導し改めさせることの積み重ねが、モンスター社員を生まないための基本です。
一度注意したからといって、すぐには人は変わりません。
根気強く繰り返し指導し、「会社は問題行動を見逃さない」「改善するまで言い続ける」という姿勢を本人と周囲に示し続けることが重要です。
それでも改善が見られない場合、いよいよ次の段階に移行します。
懲戒処分を行う
注意・指導を重ねてもなお問題行動が改善されないときは、いよいよ懲戒処分(正式なペナルティ)の検討に入ります。
懲戒処分とは、企業秩序を乱す行為に対して、制裁を科すことで本人に猛省を促す措置です。
同時に、周囲の従業員にも「問題行動を許さない」という会社の姿勢を示し、組織全体の規律を正す効果があります。
たとえば、社内報や周知文で「○月×日付で△△課◇◇氏を懲戒処分(減給○%・出勤停止◯日)とした」等と公表すれば、他の社員にも相当のインパクトを与えます(内容の公表範囲は慎重に判断すべき)。
懲戒処分には、さまざまな種類があります。
一般的には軽い方から、「戒告・譴責・訓告」(始末書提出を求めて将来を戒める)、減給、出勤停止(一定期間就業を禁止しその間無給または一部減給)、降格(役職剥奪・減俸)、諭旨解雇(自主退職を勧告し、応じない場合は懲戒解雇に切り替える予告付き解雇)などとなります。
就業規則に従い、問題行動のレベルに応じて適切な懲戒処分を選択することが必要です。
たとえば遅刻の繰り返し程度なら減給や出勤停止○日、同僚へのパワハラや顧客クレームなら減給・降格、重大な背信行為(横領や機密漏洩など)なら懲戒解雇も辞さない、という具合に段階付けします。
過不足のない判断が重要で、処分が軽すぎれば本人も周囲も反省せず、重すぎれば後日不当懲戒として争われる恐れがあります。
類似事例の社内外の処分例などがあれば参考にしつつ、慎重に決めましょう。
懲戒処分を実施する際は、会社のルールに従った正式な手続きを踏みましょう。
社内に懲戒委員会がある場合は規定に沿って開催し、議事録を残してください。
本人への事前の弁明機会付与(先ほどのヒアリングがこれに該当します)も必須です。
また労基法上、減給処分には減給額の上限規制があります。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
引用元:労働基準法 | 第91条
こういった法定の制限も守らねばなりません。
処分内容が決まったら本人に処分通知書を交付し、処分理由・内容・効力発生日等を明示しましょう。
可能であれば人事権者と所属長が同席して面談で手交し、厳正に処分を言い渡してください。
その際、「今回の処分を重く受け止め更生に努めるよう」促すとともに、「次回同様の問題行動があればより重い処分または解雇もあり得る」ということを伝え、最後通告に近い警告を発しましょう。
重要なのは、懲戒処分を経ても改善されない場合に初めて解雇(クビ)という選択肢が現れるという点です。
多くの裁判例でも、いきなり懲戒解雇に踏み切った会社に対し「解雇権を濫用した」として解雇無効と判断するケースが見られます。
つまり、重大な問題行動がない限り、懲戒処分を経ずに解雇するのは「不当解雇」と判断されるリスクが高いのです。
会社としては「もう解雇しかない」と思える状況でも、まずは減給や出勤停止などの懲戒処分を段階的に試み、それでもダメなら解雇という原則的手順を踏まなければなりません。
懲戒処分は会社側にとって「最後通告」の意味合いがありますが、同時に裁判になった際には「ここまでやったが改善されなかった」という解雇の正当性を裏付ける段階でもあるのです。
懲戒解雇を行う
懲戒処分まで実施しても態度が改まらない、職場秩序の回復が見込めないと判断せざるを得ない場合、懲戒解雇という最終手段を検討することになります。
労務管理上もっとも重い対応であり、社員にとっては職を失う処分、会社にとっても法的リスクの高い対応になります。
実行にあたっては、慎重の上にも慎重な判断と準備が必要です。
まず大前提として、日本の法律では解雇は滅多なことでは認められません。
労働契約法第16条には「客観的に合理的な理由のない解雇は権利濫用として無効」と定められており、裁判所も解雇の有効性を厳しくチェックします。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法 | 第16条
モンスター社員であっても、違法性のある解雇は決して行うべきでなく、労働法の範囲内で進める必要があります。
たとえば、懲戒解雇の有効性が争点となった裁判では、「会社が解雇に至るまでにどれだけ指導・注意を行ったか」「問題行動が組織に与えた影響の深刻さ」「就業規則に該当条項があるか」等が細かく吟味されます。
訴訟の場面では、モンスター社員に対して指導や面談を行っていたか否かが重要であり、指導を行わずに解雇すると不当解雇と判断されるケースがほとんどです。
実際過去の裁判例でも、モンスター社員的な問題社員の解雇が不当解雇と判断された例が相当数存在します。
会社側の対応プロセスに落ち度(指導不足や手続違反など)があったケースが多いのです。
こうしたリスクを踏まえ、懲戒解雇に踏み切る際は以下の点を確認しましょう。
| 項目 | 確認ポイント | 具体的な判断基準・例 |
|---|---|---|
| 解雇理由の妥当性 | 就業規則の懲戒解雇事由に当たる行為があるか | ・度重なる職務命令違反、著しい業務怠慢による信頼喪失、ハラスメントによる秩序の乱れなど ・能力不足や協調性欠如のみでは難しく、配置転換など他の手立てを尽くした履歴が必要 |
| 改善の機会の付与 | 段階的対応を行い、改善しなかった事実があるか | 書面による注意を複数回実施したにも関わらず改善が見られない履歴や、出勤停止後も態度が変わらなかった経緯など、指導内容と対応状況を記録した証拠 |
| 手続の適正 | 法令と社内規定に沿った手順を踏んでいるか | 労働基準法に沿った予告または予告手当の扱い、即時解雇時の免責認定の確認、取締役会決議を要する規定がある場合の履行など |
以上を満たし「やむを得ず解雇」という判断に至った場合でも、最終手段の前に「退職勧奨」という手順を選ぶこともあります。
退職勧奨(会社から退職を促し、合意のうえで退職してもらう方法)は解雇と比べて従業員の同意を得ている点でトラブルになりにくく、企業リスクも低いメリットがあります。
モンスター社員に自主的な退職を促し、円満退社という形で事態を収拾できればベストです。
ただし退職勧奨を行う際も注意が必要で、決して脅迫的・強制的にならないことです。
退職勧奨が行き過ぎて「事実上の解雇」とみなされれば、やはり不当解雇として争われる可能性があります。
面談で複数回にわたり丁寧に説得を試み、それでも本人が応じない場合に初めて解雇の検討へ移るという流れが望ましいです。
本人が退職勧奨に応じない・改善もしないとなれば、いよいよ懲戒解雇です。
事前に必ず専門家(弁護士・社労士)に相談してください。
解雇通知書の文面ひとつとっても、法律的な表現や事実記載の仕方で後の紛争時の印象が変わるため、万一裁判になった場合の戦略も踏まえておく必要があります。
専門家に相談しておけば、万全の証拠書類を揃えるアドバイスや、想定される相手側主張への備え(たとえばパワハラ指摘への対策など)も得られます。
解雇後に従業員が不当解雇だと主張して撤回要求や損害賠償請求をしてくるケースは多く、慎重な判断が必要です。
裁判ともなれば長期化します。
弁護士費用や人件費の負担も発生します。
敗訴すれば、復職命令や未払賃金の支払いを命じられることもあるのです。
そうした事態を避けるためにも、最後の決断は専門家と二人三脚で進めるくらいの用心深さが必要です。
モンスター社員から職場全体を守るための事前対応策

モンスター社員への個別対応もさることながら、職場全体をそのような問題から守るため、次のような予防策にも目を向けましょう。
- 業務ルール・評価基準を共有する
- 定期的な面談で不満を拾い上げる
- 問題行動を記録に残す
中小企業においては「一人のモンスター社員」に振り回されない強い組織作りが重要です。
以下からは、日頃から実践できる職場環境整備の取り組みをそれぞれ詳しく紹介します。
業務ルール・評価基準を共有する
職場のルールや評価基準の透明化は、モンスター社員の発生を防ぐ基本中の基本です。
曖昧なルールや不透明な人事評価は、従業員に不公平感や不満を抱かせ、やる気の低下や反発心の増大を招きます。
実際、「教育・指導が不十分」「評価制度・人事配置の基準が不透明」といった職場では社員のモチベーションが低下し、長期間ストレスを感じることで社員がモンスター化するケースも少なくありません。
裏を返せば、社内ルールや評価の物差しをしっかり確立し、社員に周知徹底することで、自分勝手な行動を抑制できるのです。
具体的には、就業規則や社員ハンドブックに定めた服務規律・懲戒規定・ハラスメント禁止規定などを新入社員研修や朝礼などの機会に繰り返し共有します。
「何があれば懲戒対象になるのか」「どんな行動がハラスメントに該当するのか」を全員が理解していれば、「知らなかった」「自分だけじゃない」という言い訳は通用しなくなります。
また、人事評価の基準や昇進・昇格要件も可能な限り開示し、公平で納得感のある制度運用に努めましょう。
たとえば営業成績だけでなく勤務態度や協調性も評価項目に入れているなら、その旨を事前に示します。
評価に対する不満がモンスター化の引き金となる場合もあるため、「なぜ自分は評価されないのか」という疑念をできるだけ生まない工夫が必要です。
加えて、企業理念やビジョンの共有もすべきです。
会社として望ましい行動規範(バリュー)を定め、朝会で簡単に唱和したりポスター掲示したりして周知する企業もあります。
社内に一貫した価値観が浸透していれば、社員が独善的な振る舞いに走るのを抑制できます。
たとえば「チームワークを大事に」「思いやりを持って行動」といったキーワードが全員に意識されていれば、利己的な行動を取る社員も肩身が狭くなるはずです。
企業文化の確立と浸透はモンスター社員を防ぐ土壌作りでもあります。
このようなルール・基準の共有や価値観浸透には、社内研修や勉強会の活用も考えられます。
社労士事務所や外部講師によるコンプライアンス研修、ハラスメント防止研修、労務管理研修などは、客観的な知識を学ぶ良い機会です。
たとえば「パワハラ防止のためのアンガーマネジメント研修」「労務コンプライアンス研修」を定期的に開催すれば、管理職・一般社員問わず職場のルールや倫理観への理解が深まります。
私たち社会保険労務士事務所ダブルブリッジのように、教育研修サービスで企業様を支援している専門機関もあります。
こうした第三者の力も借りながら、「ルールを皆で守る」「おかしな言動は許されない」という組織風土を醸成していきましょう。
定期的な面談で不満を拾い上げる
定期的な従業員との面談(1on1ミーティングなど)を実施し、社員の声に耳を傾ける仕組みも、モンスター社員を未然に防ぐ有力な方法です。
上司や人事担当者が定期的に各社員と面談することで、その社員の業務の進捗状況や抱えている課題・不安、会社や上司に対する意見・想いを共有できるようになります。
会社側は意見を踏まえ、社員の能力に応じた目標設定を見直したり、必要な教育・指導を検討したりできます。
当プロセス自体が、潜在的なモンスター社員の業務へのモチベーションアップにつながるのです。
たとえば、ある社員が業績不振で叱責を受け続けて不満を溜め込んでいる場合、面談で「何が障害になっているか?」「何に不満を感じているか?」を聞き出せれば、早期に手を打てます。
コミュニケーション不足が原因で孤立している社員に対しては、定期面談がガス抜きやケアの場にもなります。
最近のIT化やテレワーク普及で対面の機会が減った分、意図的に対話の場を設ける意義は大きいです。
心理学的にも、「人は自分の話を聞いてもらえるだけで安心感が生まれる」という考え方に該当します。
面談で上司が「あなたの意見を大事に思っている」と姿勢を示すだけでも、社員の不満や孤独感は和らぎ、過激な行動に走る可能性が低くなるはずです。
また、社員の不平不満を吸い上げる仕組みは面談以外にも考えられます。
たとえば定期的な社員アンケートや匿名での意見箱の設置、あるいは人事担当との1対1のカウンセリング制度などです。
重要なのは、社員が声を上げやすい環境を用意することです。
「どうせ言っても無駄」「言えば自分が不利になる」と思わせてしまっては、不満が社内で凝固し、やがてモンスター化した形で噴出してしまいます。
逆に、「会社はきちんと耳を傾けている」「改善できることはちゃんとやってくれる」と社員が感じられれば、理不尽な要求や攻撃的な振る舞いに訴える必要もなくなります。
実際、人事コンサルティングの事例でも「モンスター社員予備軍の意見を聞く場を設ける」「被害を受けている社員が相談できる窓口を用意する」ことが効果的なことが多いものです。
面談やアンケートを通じて社員の声を拾い、「声を聞く姿勢」を示すことが肝心なのです。
特に、他の社員がモンスター社員から被害を受けている場合(パワハラや嫌がらせなど)は、早期に人事が察知して守ってあげる必要があります。
定期面談では、そうした周囲の声も含めて収集しておきましょう。
定期的なコミュニケーションの場を設けておけば、モンスター社員が生まれる要因を事前に除去できるだけでなく、万一問題社員が出てしまった場合でも、周囲の社員から早い段階で情報が上がってくるようになります。
「最近○○さんが職場で怒鳴り散らして困る」といった声を部下が上司に言いやすい関係ができていれば、初期対応も素早くできます。
日頃の対話と信頼構築が、職場の異変に気づくセンサーとなり、問題拡大を防ぐのです。
心理的安全性の高い職場(=何でも率直に言い合える職場)はイノベーションだけでなくリスク察知にも有効だと言われます。
ぜひ経営者・労務担当者は「社員と定期的に向き合う場」を仕組みとして取り入れてください。
問題行動を記録に残す
問題行動の記録を残すことは、既に初期対応や懲戒処分の段階でも触れましたが、平時からの重要な備えでもあります。
どんな小さな違反やトラブルも、「まぁ今回だけはいいか」と流さず記録を積み重ねておく習慣をつけましょう。
なぜなら、単発では見過ごせる言動も積み重なることで深刻な問題に発展することがあるからです。
また、記録があることで後から振り返って対策したり、必要に応じて懲戒の根拠資料としたりすることができます。
たとえば、「近頃あの社員は少し協調性に欠けるな」と感じたら、些細なことでも上司はメモを取っておきたいところです。
「◯月△日、○○のミーティングで□□さんの発言を遮り、自分の意見を一方的に押し通そうとした」などです。
メモを人事担当にも共有しておけば、「実は他の場面でも似た事例が起きている」という情報と照合できます。
複数の部署から似た報告が上がれば、早期に注意指導すべきだと判断できるはずです。
記録する内容は、できるだけ客観的事実を中心に書きましょう。
主観的な評価(「協調性がないように思う」ではなく、「〇〇の場面で△△と言い放ち、議論を打ち切った」等)を避け、日時・場所・内容・影響を具体的に記述しましょう。
メールやチャットでの問題発言ならそのスクリーンショットを保存し、業務成績の著しい不振なら数値データやミス件数を記録しましょう。
複数の証拠を組み合わせ、客観性の高い形で証拠化しておくことが将来的なリスク軽減に不可欠です。
たとえば注意・指導の場面を音声で録音し議事録に書き起こしたもの、本人が提出した始末書、被害を受けた社員のメモなどが該当します。
さまざまな記録を総合してファイル化しておくことが望ましいです。
このような記録は、懲戒や解雇の判断材料になるだけでなく、後から第三者に説明する際の裏付けにもなります。
社労士や弁護士に相談するときに詳細な記録があれば、適切なアドバイスを得やすくなり、万一労働審判や訴訟になった場合でも会社側の主張に信憑性が生まれます。
「◯月から×月にかけてこれだけ注意したが改善なく、証拠もこれだけある」と示せれば、裁判官に与える印象も違います。
逆に記録が乏しいと「本当にそんな問題社員だったのか?」「会社側の主観ではないか?」と疑われかねません。
また、記録を残すこと自体が将来の抑止力にもなります。
社員に「○○の件は記録しておく」と伝える場面があれば、本人は「社歴に傷がつく」「評価に影響するかも」と感じて軽率な振る舞いを控えるかもしれません。
もちろん記録の存在はあくまで内々のもので、公然とはしない配慮も必要です。
社員によっては「叱られても記録に残らなければ痛くも痒くもない」と高を括る者もいるため、記録に残し人事評価や処分に反映させる姿勢を示すことも時には必要になります。
平時からこのような「記録する文化」を根付かせておけば、万が一モンスター社員的な存在が現れても社内で証拠が蓄積されており、スムーズに懲戒手続き等へ移行できます。
第三者機関(労基署や裁判所等)からの調査が入った際も、客観的資料に基づいて説明できるため会社の信頼度が高まります。
記録は会社と社員双方を守る防護策でもあるため、「嫌な役回り」と思わずしっかり取り組みましょう。
モンスター社員への対応では心理的安全性を守りながら組織を立て直そう!

モンスター社員がいると、周りの方が遠慮して話せなくなり、仕事もうまく進まなくなるため、会社は早く動いてみなを守ることが大切です。
何もしないまま放っておくと、ほかの社員が強いストレスを受けたり体調を崩したりして、会社が責任を問われるおそれもあります。
対応するときは、ひとりの上司に負担がかからないように、会社全体で力を合わせて取り組むことが必要です。
問題が片付いた後は、会社がどんな方針で動いたかを社員にやさしく伝え、不安をなくし、職場の空気を立て直しましょう。
また、外部の専門家に相談すると、会社では気づけない改善点を教えてもらえるので安心です。
私たち社会保険労務士事務所ダブルブリッジでは、社会保険労務士4名を含む9名の専門スタッフが在籍しています。
モンスター社員への対応や、トラブル防止のための就業規則作成、モンスター社員が労基署に駆け込み労基署から問い合わせがあった際の対応などトータルでサポートします。
職場環境改善に課題を抱える企業様も、安心してご相談いただけます。
問題を乗り越えた経験でチームの結束を強め、職場全体の働きやすさを高めていきましょう。

